GM: 各務本社の待合スペース。
GM: 外は雨が強く降っていたが。来訪したものはスーツに雨痕も見つからず。
GM: 約束していた人物を呼び出した。
GM: その者は簡潔に言ってのけた。
芦屋: 「『石動姫』の話をしようか」
劉斗: 屋内にも関わらず、濃いサングラスで目元を覆った白髪の男が来訪者に応じる。
劉斗: 「お待ちしていました。このような身成で失礼します」
劉斗: 恭しく一礼し、ゆっくりとした足取りで、社屋の辺鄙な箇所にあるプライベートルームへと導いた。
GM: 歩み。歩み。手には長物を包んだものが現れる。
芦屋: 「これが『約束』のものだ」
GM: ごとりとテーブルに置く。
劉斗: 「宝刀・石動姫」その名称を呟いて、一言断りを入れてから現物を拝見する。
劉斗: 「――確かに」触れれば判る。あの時の感覚が指先から伝わってくる。
GM: 長らくの間手入れもせず。先日激しい戦闘があった割に。
GM: 刃毀れすらなく。ただ。一心に
GM: 持ち手の命をも梳ろうとしていた。力と引き換えに。
芦屋: 「”目”については」
芦屋: 「戻そうとは思わなかったのか」
GM: 答えを期待せずに。笑って。
劉斗: 「“魂”が消失したにも関わらず、纏う気の強さはあの時のまま――静かな、それでいて気の強い姫の形見」
芦屋: 「―――」
芦屋: 「”姫”は」
芦屋: 「己がわしが戯れに作った獣にて傷ついた時。事もあろうかに」
芦屋: 「傍にいた蔵人の刀を奪い。切りつけた。他のものを護るために」
GM: 芦屋はゆっくりと思い出すように。
劉斗: 「ええ」
劉斗: 「故に、残滓といえど、彼女に応じるには俺にもそれなりの代償が必要と考えた。ただ、それだけの理由ですよ」
芦屋: 「一筋の傷すらつけられない、とわかっていても、だ」
芦屋: 「だが」
芦屋: 「結果は――そう。こいつを手に封印まで追い詰めた」
GM: 目線で刀を指したのがわかる。
劉斗: 旧知の友との昔話に耳を傾けるように、静聴する。
芦屋: 「ただ異様なまでの頑固さと精神を持った女が自らの髪を絶ち。武器とし。命を賭してまで成し遂げた」
芦屋: 「そんな云われのある剣だ。そして改めていおうか。『約束』のものだ。受け取るといい。もうお前のものだ」
GM: 静かに息を吐いて。
劉斗: 「拝領、致します」
芦屋: 「切るなり。打ち直すなり。棄てるなり。何かの礎に使うなり。好きにするといい」
芦屋: 「わしの妄念はもうここにはない」
GM: かかっと笑い。
劉斗: 「彼女にとっての己の命と。そして、俺の目も。」
劉斗: 「自らの弱さで魂を砕く事に比べれば――安いものですから。そしてこれこそを妄念と呼ぶのかもしれません」
劉斗: 「ずっと求めていたんですよ。俺の炎に耐えられる刀を」
芦屋: 「それが人として何かを捨て去っても、かな」
芦屋: 「何」
劉斗: 「人として生まれたからには、可能性を試してみたい。どこまで行けるのか、どこまで高く飛べるのか。」
劉斗: 「その結果燃え尽きて墜ちるならば、それもいい」
劉斗: 「人が人を超えて別のモノとなる。矛盾していますが…それこそが人の性というものだと」
芦屋: 「小娘の後の話だ。そうだな。だからこれで始末は終わりだ」
芦屋: 「小五月蠅い奴が残ったが。後はこちらの世界の話。―さて。鳥越 劉斗」
劉斗: 名を呼ばれ、頷く。
芦屋: 「お前は刃と云った。もう一つは…死の淵よりわしが戻した」
芦屋: 「お前には手にしていない選択肢だ。何かする事はあるか」
劉斗: 少し考える素振りを見せて、ゆっくりと口を開く。
劉斗: 「…彼女の身柄を、引き受けたいと願っています」
GM: 芦屋は若干驚いたような気配を。
劉斗: 「空木の継承者では無い俺が、神社の宝刀を所持するというのはおかしな話」
芦屋: 「UGNに預ける、という手もあるんだがな」
劉斗: 「後見人であれば、所持の理由も後から付けられましょう」
劉斗: …だと思いませんか? と、こじつけの理由を言ってのける。微かな口調の違いから、いくらでも疑念を欲することはできる。
芦屋: 「まぁいいさ。追って顔を出させるようにしよう」
GM: これで話は終りとばかりに。部屋の入口の方に。
GM: 芦屋は気配にも出さず。黙殺した。
劉斗: 「感謝します」椅子から立ち上がって、客人を見送ろうとする。
劉斗: ――まあ、理由などというほど大したものはない。
劉斗: そうしたかったから、と。実にシンプルな感情論。日和ったものだと自らに苦笑しつつ。
GM: 芦屋は一度だけ入り口で止まり。
GM: かかっと笑って出て行った。
GM: 窓よりみると雨の中傘も持たず歩いていき。そのまま消えた。
劉斗: 社務庁の使いが消えてから、宝刀を前に椅子に座り込む。
劉斗: 珈琲の香りが、先だって鼻腔をくすぐる。近づいてくる気配に、ぼやくように独りごちる。
劉斗: 「……義眼内蔵型アドバンスドゴーグルを試作したと聞いた時には、正直、誰がそんなピンポイントに需要を制限するモノを必要とするのかと」
劉斗: 「開発者は馬鹿かと思ったが」
劉斗: 「こうも早く俺自身がそれを試す羽目になるとは。分からんものだな」
劉斗: お前の仕業にしておくよ、と笑みのような表情を浮かべて珈琲を口に含んだ。
GM: UGN黒巣市支部。ホテル・エリシュオン。支部長室。
GM: 刀を返還した後。簡単な後始末の話があるので来てください、とのお知らせがあったので
GM: 足を運んでみた。
聖: お知らせがなくてもまあ行くよ!
GM: 支部長室には
GM: 支部長代理の天城美鈴ともう一人。
GM: 鈴木和美がそこにいた。
美鈴: 「お手数かけてすいません。連城さん」
聖: 入室をして、一礼。
GM: どうぞ、とソファを指す。
GM: 自身も向かいの席に。和美も同じく。
聖: 「ああ、いえ。それはこちらが言うべき事でしょう。……では、失礼します」
聖: 第一声で、謝罪を吐くのは簡単だ。だが、そんな事より、優先すべき事があるだろう。深い息と共に呑みこんで、ソファに腰掛ける。
美鈴: 「空木市の件は崩落による大規模火災と情報操作しました」
GM: これは資料です、と航空写真を見せる。山が半分抉れているようなもの。
聖: 情報操作も楽ではなかったろう。ひとつ頷いて、写真を眺めた。
美鈴: 「アルカナセルエージェントとして”失墜の騎士””剣の11””Autopain”の存在は後日、他支部にて確認。混乱を乗り切り身を隠したようです」
GM: 美鈴は隣の和美を見て
“謎の女”: 「晃野満月さんはこの都市の郊外にて発見したわ。かなり衰弱していたけれど。調書も取れるぐらいには体力も戻っていたみたい」
聖: 「そうですか──それは、よかった」
聖: 強い実感を込めて頷く。私を迎えに行く。そう言っていたからには、死んではいないだろうとは思っていたが。
聖: 危惧していたのは、そこだ。とりあえず身柄を抑えられたことは僥倖だろう。
“謎の女”: 「該当する”塔”のエージェントは不明。」
“謎の女”: 「高度な変異能力を持っていると考えられる事から無闇に疑惑の念をつけると混乱を生じる事から内々で処理する事にしたわ」
美鈴: 「踏み込むと―失墜の騎士の思うままになるので。判断として関わらない事にしました」
聖: だろうな、とは思った。あの力は、複製能力もさることながら、疑心暗鬼を煽る事に長けた力だ。
聖: ええ、と相槌を打って話を促した。
和美: 「そして。もう一つ報告ね」
和美: 「空木みなみさん、あの神社の娘なんだけれど。オーヴァードとして覚醒し蘇生されたわ」
GM: 誰の処遇か知らないけれど、と。追記して。
聖: 「……………」
聖: ぽかーんなるわ。(何)
和美: 「話を聞いてみるとここ数日の記憶を操作されて。無かった事にされている」
聖: え、誰が蘇生してくれたんだよ!と突っ込む気持ちも、誰か分からないというそのコメントに、頭を抱え。
美鈴: 「問題は」
聖: 「……ええ」
美鈴: 「これも何かの罠なのではないか、と考えています」
美鈴: 「大都市に起きた事故の唯一の生き残りであるオーヴァードの彼女に精神的ストレスを与える為とか」
聖: 「……彼女の身柄は、どうなさるんですか?」
聖: まあそうかもしれないが、キリがないだろう。そんな彼女を、これからどうするのかというのを訪ねてみる。
美鈴: 「その意図もわかりませんが」ある意味安心の為に連城さんに聞いてみようかと、と補足して。
美鈴: 「鳥越さんが後見人として名乗りを上げています」
GM: みなみについて。資料と書類を前に。
聖: 「そうですか、鳥越さんが。……彼女の神社の宝刀に強い興味を示していましたから、まあ色んな意味で妥当ではありますね」
和美: 「ジャーム…荒神については活動停止を確認。損害はあれど、事件自体は一応の終結を得た、と見ていいかもね」
GM: 沈痛な面持ちでつぶやいて。
聖: 屍と、憑きしもの、その名。結局自分はそれしか分からなかった、彼女。資料を手に取る。
美鈴: 「彼女が石動姫としての宿命を解放された、というのは良かった事だったのかもしれませんね」
GM: 慰めにしかならない言葉を紡いで。
和美: 「それでは事件についてはこちらからは以上ね」
聖: 困ったように笑う。……ああ、優しい二人だ、と思った。
聖: イリーガルという立場の自分には、悪い所は事務的に語り、良かった探しをしてくれる。それが、居た堪れない。
GM: 和美は笑って立ち上がり。出ていく。
GM: 美鈴は見送り。ありがとうございました、と。
聖: ソファから立ち上がって、頭を下げ、見送る。
美鈴: 「連城さん」
聖: 「──はい」立ったまま。彼女の正面に振りかえる。
美鈴: 「ありがとうございました。荒神とよばれるジャームを打ち倒してくれなければ。更なる被害を生んでいたと思います」
GM: 深々と頭を下げて。
聖: 「………」
聖: はく、と口だけが動く。止めて下さい、という声は言葉にならなかった。
聖: こうして頭を下げる彼女に感じる心の痛みは、そのまま受け入れるべきだ。
美鈴: 「後はわたしの仕事です。届かなかった事。出来なかった事を。あなた一人が背負う事じゃないんですよ」
聖: 「いいえ。こちらこそ。───力になれなくて。本当に、申し訳ありません」
聖: きっちりと、深く頭を下げる。
美鈴: 「――はい」
聖: それに対しては、返す言葉を探せなかった。多忙な彼女に、これ以上時間を割いて貰う訳にはいかないだろう。
美鈴: 「そうですね。これからも力を貸してもらえますか?」
聖: 「何かありましたら、また呼んで下さい。──ええ、勿論」
美鈴: 「お願いします。―改めて。ありがとうございました」
GM: 頭を下げ。
GM: 小さくテーブルにある書面にサインした。
聖: 「この詫びは、必ず」
美鈴: 「連城さんには」
美鈴: 「ずっと力になってもらっていました。謝らないでください」
GM: ね?と小さく笑って。
聖: それにはしっかりと頷き、辛うじて笑みをのせて返して。ぴらり、と一枚の紙を資料から引き抜き。
聖: 「では、もう行きます。美鈴さんこそ、余り──背負い過ぎないで。容赦なく、私にもその荷を与えて下さい。それが、今回の教訓だと、思うんです」
聖: 退出の姿勢。頭をまた下げようとして──止めた。同じ事の繰り返しになる。その代わりに、笑いを作って見せて
聖: 「それでは、また」
美鈴: 「ええ。また」
聖: ひとつ息を吐く。右手に握った、うすっぺらい紙一枚に並べられる、死傷者のリスト。その羅列は何と無機質で、重い事か。
聖: ひらりと左の手を振ると、何も感じさせないようなその背を向けて、退出した。
GM: 軽く転寝をしていると気配がした。
GM: みなみが戻ってきたのか。とそう思い目を開くと。
GM: 何処か表情の中憔悴した知人がそこにいた。
皓: 「──ごめん、起こしちゃったかな」ぽつ。と小さく呟き、密かに笑いを作った。自然に出たそれじゃない表情で。
満月: 「……こう、君……? いや、起きてはいたから、大丈夫だけど……。」
皓: 「寝てたみたいだから、置いて帰る気でいたんだけど」これ、お見舞いね。と手にしたメロンの袋を示し、袖机に音を立てない様置いた。
満月: 言いつつ、近くにあった時計を見る。 ……さっき話してから、少しだけ時間が経っている。そうか、知らない間に寝ていたのか、と今更気付いて。
皓: 「ちょっと様子を見に来ただけだから。──まだ辛いよね。寝てていいよ」
皓: お大事に。と小さく呟いて。
満月: 「……大丈夫、だよ。 大分マシになった、し……。」 ありがとう、と返し。……なんだ、待って。何か忘れているよな。
皓: 「いや、辛そうだよ──無理もない、から。ゆっくり休んで」それじゃ。と、軽く手を振って踵を返した。
満月: ずきん、と痛む。 さっきからずっと痛んでいる。 ――そうだ。そうだ、何で……。
満月: 「……本物の、皓君かな。君は。」
満月: ぽつりと。それは自分でも気づかぬ内に零れ出た呟き。
皓: ぴく。と、その言葉に立ち止まり。
皓: 「……そっか、疑われても仕方ないよね」
皓: 苦笑は、目を合わせずに漏れて。
皓: 「本物のつもりだよ」
皓: 「でも君が疑うなら、違うんじゃないかな。……そういう風に見られる前に、帰ろうかなって」
満月: 「疑っては、ない。疑っては――……いや。」
満月: 喋れ。流れを断ち切る事なく、ともかく喋れ。勢いに任せて喋り、その中で状況を判断しろ。 軽く息を吐き。
満月: 「本物、なら……こう君。 ……教えてくれない、かな。 どうして、ずっと……連絡をくれなかったのか。」
満月: これでも心配してたんだけど、と。 何時もの口調……になるように、努めて。
皓: 「………」
皓: 「出来る状態じゃなかった。って言うのは、言い訳にしかならないよね」
満月: 「――そう、だ。うん。そうだ。 確かあの時に、別れてから……天城さんとかにも問い詰めたんだけど、さ。 何か、教えてくれなくて。」
満月: そうか、と苦笑をし。
皓: 漸く出たのはそれだけ。はふ。と、何時まで経っても目線は合わせられずに──そのこと自体に自分にいら立ちつつ。
皓: 「何を言っても、言い訳にしかならない」
満月: 「……あの時に、一人で突っ走ってく君を、唯一まだ動ける私が止めてれば……あんなに心配する事もなかったのに、とは正直何度も思ったよ。」
皓: 「そう、かもしれないね」
皓: 「でも、あの時は──あれが一番いいと思ったんだ」
皓: その結果がこれだった。そう続ければまたいい訳になる。言葉を切った。
皓: ……満月さんが今回の件を知らないなら、そのままでいいだろう、とは内心で呟き。
満月: 「そっか。 ……いや、まぁ。あの時の事は済んだ事だ、今更はもう言わないよ。うん。」
満月: 「……ただ、まぁ。 本物なんだよね。それなら、本当に良かった。 ちゃんと……こうやって、戻ってきてくれて。」
満月: 其処まで言いきれば、ようやく安心したかのように。はぁ、と大きく息を吐き。
皓: 「満月さんも、無事で良かったよ」
皓: 無理して笑い、応えた。すっかり帰るタイミングを失してしまったな。と、扉を一瞥しつつ、気づかれない程度で息をつく。
満月: 「……ありがとう。」 言って、今一度息を吐く。 ……ゆっくりと、首を振り。
皓: 「────…………」言われた例に数度、瞬きした。──返事が、直ぐに出てこない。
満月: 「……これで、皓君が行方不明になったままでさ。」
満月: 「……その上で、兄さんとか友達とかも短期間で失くしてたかもしれない可能性を考えると。正直……怖くて仕方がないや。」
満月: 安堵した為か、落ちそうな涙を隠すかのように新聞に視線を移し。
満月: ……新聞を読むたびに、何かが引っ掛かる感覚に襲われる。だけど、理由は分からない。“思い出せない”。
皓: 「──……君に、礼を言われることはしていない。満月さん、僕は」ふる。と、視線を落とし、首を振った。
満月: 「……遅まきながらも、こうして姿を見せてくれた。 今の段階なら、それだけでもお礼を言うだけはあるって……そう、思ったんだ。」
満月: 軽口を少し混ぜて見つつ。
皓: 「──無いよ」
皓: 「無理だ、満月さん。僕はその言葉を……受け入れられない。今は、無理だ──ごめん」
皓: 掠れた声。俯いたまま、絞り出すようにそう言って。
満月: 「……やっぱ、あの時。 君一人だけに行かせたの、失敗だったのかな。」
満月: 連絡が無かった一週間で、彼の身に何があったのかは分からない。
満月: ……だけど、もしもあの時。無理やりにでも一緒に行く事が出来たのであれば……また違う分岐を見せたのだろうか。
満月: 苦しそうな彼を、見なくて済んだのだろうか。
皓: 「────……、……みっともないところを見せたかな」
皓: 不自然に長い沈黙を以って。不自然に言葉を打ち切るように、顔を上げた。努めて普段通りに笑い。
皓: 「見舞いに来て、こっちが心配かけたとか。本末転倒だよね」
皓: はは。と苦笑を洩らし。片手で髪を掻きまわして。
満月: 「……みっともない事なんて、何もないよ。」
満月: 「そんな事を言ったらこんなところで一人、何でこんな怪我まみれで病院にいるのかすら分からずにヘタレこんでる私はもっと立場が無くなる。」
皓: 「今日は帰るよ。──早く良くなってね。また、教室で」ひら。と手を振り。今度こそ振り切るように扉に手をかけた。
満月: 「……それにさ、良いんだよ。そう言う部分とかは無理やり隠そうとしなくとも。」
満月: 「……そうする事で、私たちはお互いに次へと進む事が出来るんだから。」
満月: ね、と軽く笑って見せ。
満月: 「だけど……それでも今は、と言うのであれば――受け入れられる準備が出来るまで、言葉はもう少し先に取っておくよ。」
満月: 「ともあれ、次に会うのは教室で……になるのかな。」
満月: もう少し入院かかりそうだから、また来てくれると嬉しいけど。とは言いつつ。 静かにその姿を見送る。
皓: 「………」ノブに手をかけ。背中で言葉を聞いた。それに何かを口中で呟きつつ。
皓: 「──またね」
皓: 結局応えられずに、廊下に出た。
皓: そのまま、よろめく様に脚は屋上に。外に通じる扉を開け放ち、その風をに受け。
皓: ──ドアを閉めた瞬間、背中を預け、崩れた。
皓: 解っているつもりだった。ひとりで何もかも出来ないこと。一人では、独りになっては出来なくなること。
皓: 「解ってる……つもりだったんだ」呟く。片手で髪を掴み、絞り出す様な、声。
皓: 「────でも、解って無かったんだな……僕は……」
皓: 自嘲だろうか、独白だろうか。漏れた言葉はただ己の耳にだけ届くそれで。
皓: そのまま、蹲る様に片膝を抱え込む。──足元に落ちたのは、数滴の雫。
「いや。こうまで上手くいくとはね」
ある倒壊しかかっているビルの縁に足を出し。男は一人つぶやいた。
それぞれは単なるほんの一つの火種。
それを大局的な視点で見て。己に火がかかるにも関わらず掴み取り。そして火をつけて撒く。
かつての自分なら出来なかっただろうわが身を振り返らない行為。
それこそが。
「疑惑の華を咲かせた」
不幸を。更に。世界を。真実を。正義を。
全てを堕してしまおう。
携帯電話を取った。
次の話を。
真実を摘み取る話を始めよう。