時は数刻前へと遡る。
――ああ、如何してこうなったんだ! 煙幕によって逃げ出し、予定の落ち合い場所に向かう中で一人考える。 そして現在の状況を思い浮かべれば、イライラとした様子で舌打ち。 確かにあの情報は真実だった。だが、その後は一体何なんだ! そのお陰でなかなか面倒な事となってしまった。本来なら、もっと楽に事が運べる筈…… 「苦労しているようだな。」 その声に、慌てて顔を上げる。 其処には確かに、あの時の―― 「“誰のせいだ”とでも言いたげな顔だが。仕方あるまい、此方としても『想定外』の事だった。」 冷静な相手の様子に、更に苛立ちは募る。 厭味を言いに来ただけならば、と踵を返そうとして。 「だからこそ。 手助けをしようと思ってな。」 そう言って、奴は。 “ソレ”を差し出した。 ------------------------------ 「――はい、如何にも停滞の兆しが見えたので。予定通り譲渡は完了しました。」 「本当に持っていると言うのであれば、次に確実に使ってくるでしょう。最早奴にチャンスは一度しかありません。」 「万が一持っていなくとも、厄介な存在と言う事に代わりがない――」 「予定通りに、永遠の休息を。」 「“完全なる人間”は、今となっては闇に葬られるのを待つだけのプロジェクトであり。」 「彼のような者が抱えるには、余りにも深く重きものですから。」 「……ならば、我々は“慈悲の心”を持って安息の時を与えるのみ。」 「“Posuit mihi Deus semen aliud pro Abel, quem occidit Cain.”」 「『人の子』である“弟”を受け継いだ『新たな子』は。」 「果たしてこれからの礎石として相応しいものを見せてくれるかどうか。 ……楽しみで仕方がありませんね。」 |